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「アラーニェの虫籠 」 感想

今回はアラーニェの虫籠というホラーアニメーション映画です。当時映画館で見たときにすごく印象に残った作品です。うろ覚えで書いてしまおうかと思っていたのですが、DVDを購入したため見直してのレビューです。

 

概要

いわくつきのウワサが絶えない巨大集合住宅。気弱な女子大生りんはある夜、救急車で搬送される老婆の腕から、大きな虫が飛び出るのを目撃する。りんは過去にもこの地域で奇妙な虫の目撃例が多発していたことを知る。それは心霊虫と呼ばれ、古来から人知れず存在していた...。

公式のあらすじから引用しました。ちなみにアラーニェ(aranea:アラネア) ラテン語で蜘蛛の意味らしいです。

ホラーアニメ映画ってありそうでなかなか少ないと思います。アニメーションだからこそ追求できる恐怖表現を劇場で楽しめるのはなかなか貴重な体験です。私自身、一度劇場で見られたのは幸せでした。DVDで独りきりで見るのもまたいいですが。

 

ビジュアル

ホラーにはつきものですが、ゴアな表現が多くさらにタイトル通り虫がたくさん出てくるので苦手な方は多いかもしれません。ホラーとしては割と強めで、見返してみてもかなり怖かったです。

ただ、全体的に絵が綺麗で引き込まれます。恐ろしい絵は美しくもあり、目を背けられなくなります。見ているときは非常に怖いのですが、思い返すと綺麗な絵だったなと感じてしまいます。特にこの恐怖の中の美しさという点で、アニメーションならではの良さが遺憾なく発揮されているように感じました。虫のデザインも秀逸だったと思います。特に赤い蛾の描き方は不気味さと美しさの両立という点で非常によかったです。ホラーとは違いますが、ビジュアル面で空の境界の1章や5章に通じるものを感じました。

人物の目は涙丘(目頭のとこの赤い肉の部分)まで描き込まれており、生物であるということが強調されているように感じました。アニメ特有の"キャラクターの人間離れ"というか"二次元キャラっぽさ"のようなものを排除しているような。写実的というわけではないのですが、きちんと肉付けされた質感になっており、これがまた恐怖シーンを引き立てています。また死体の山のブヨブヨした質感もとても気持ち悪く、死体を積んで這い上がるシーンでのりんの必死さと辛さが痛いほど伝わってきてよかったです。

坂本サクというクリエーターが監督、作画、音楽等すべてを1人で手掛けた作品というのも触れ込みになっています。とても1人でつくったとは思えないクオリティーです。一人で作ったことをここまで全面に押し出すのは微妙ですが...(物語と関係ない裏話にあまり興味が持てないので)

 

ストーリー

一見難解に思えるストーリーですが、本筋は意外にシンプルだと思います。ただ説明が少なく、よくわからない箇所は多くありました。逆に言えばその辺りに考察の余地が多く、監督も多様な考察を歓迎しています。細かいところまでよく練られているので、あれこれ考えるのも楽しいです。文字を読むゲームが好きな人には特に刺さりそうな感じがします。ちなみに公式サイトでは考察のヒントとなるページが用意されています。

謎の検証 | ara-mushi

 

総評

ホラーとして恐ろしさを担保しながらも、美しい作品でした。とても面白かったです。

1回目見た後は正直ストーリーがよくわからず高評価できませんでしたが、何度も見返すとストーリーがよく練られていることがわかりました。初見と2回目以降では見える景色が変わってくると思います。

私も含め多くの人にとって、劇場で同じ映画を何回も見るのは時間的にも金銭的にも難しいと思います。そのためか、一本道で迷いようのないストーリーが多くなりがちに感じます。もちろん明快なストーリーも良いのですが、そればかりになると寂しいです。

そんな中、こういった自分で考える余裕を与えてくれる作品は貴重で、ありがたいです。

 

考察

以下、自分なりに考察したものを記しておきます。1回目の鑑賞後は物語がよく理解できなかったので、基本的な事柄から書いてみました。

 

考察 私が読み取ったこの物語の本筋は次のようになっています。主人公のりんは本当は住原りん(黒髪)だが、椎田りん(明るい髪)に成り代わっている。最後は住原が己が人を傷つけてしまう存在であることを認め、椎田の代わりに“落ち”ていく(=住原の死と椎田の覚醒)。住原に引き上げられた椎田は長い昏睡から目を覚ますも、街は既に心霊蟲(およびシハクヘイ)に覆われていた。なかなか絶望的な終わり方だと感じました。
苗字不詳のキャラが多い理由 時世や奈澄葉の苗字が明らかにならないのは、苗字を偽っている彼女が意識的に苗字を見ないようにしているからだと思いました(特に彼女の時世の名刺の持ち方は不自然に見えた)。
りん役の花澤香菜さんの演技(感想) 2人のりんの演じ分けや、モノローグのりんと第三者から見たりんの違いの表現がすごかったです。収録風景がDVDの特典で付いてきたのですが、そのあたりも言及されていて面白かったです。
心霊蟲に関して 心霊蟲は元々誰しもの内に存在する見えない虫で、何らかの理由で共存できなくなったときに具現化して体内から出てくる。この心霊蟲が体内から出てしまうと死ねない肉体になり、これを利用したのがシハクヘイ。巨大集合住宅の地下でシハクヘイ作製の人体実験が行われていた。40年前の奇病はこの実験の失敗(?)。死体の山は失敗作のプールだが、このうち一体が偶然シハクヘイと化した。
登場人物の役割 心霊蟲が体外に出て行く兆候を察知し、シハクヘイ化する前に殺害していたのが救済師。 終盤のシーンから判断するとシハクヘイを作製していたのは乳母車を押す女性(住原りんの母親?)。 斎恩は心霊蟲をシハクヘイに再び戻すことによりシハクヘイ倒そうと試みており(序盤のカナブンはその練習台だった?)、実際にあの石は青い蛾をシハクヘイに呼び戻してこれを殺した。
不明点1 不明なのが、彼女が何のためにシハクヘイを作製していたか。有識者と一緒に考えたいです。
不明点2 またどのように作製していたかもわかりません。心霊蟲と共存できなくなった人間も“救済”されるまでは普通に生活していたので、(1)軍での実験と同様の薬剤を知らないうちに乳母車女に注射されたか、(2)この地域全体にこの薬剤が散布されているか、(3)終盤りんを拘束していた機械で心霊蟲を追い出されたのちに記憶を消されて元の生活に戻されたか。シハクヘイが救済師亡き後急速に蔓延したこととから(1)、(2)が私的には有力ですが、(3)だと乳母車の中身が身動きの取れない人間だという描写とよく合い、死体の山もこの手法による失敗作のプールだと説明できます。恐らくこれらの組み合わせだったのでしょう。

 

 

アラーニェの虫籠

アラーニェの虫籠